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大阪地方裁判所 昭和47年(行ウ)95号 判決

尼崎市塚口町一丁目三三番三七号

原告

山田房雄

大阪市淀川区三津屋南三丁目一八番一号

原告

山田清

右同所

原告

山田健次

右三名訴訟代理人弁護士

永岡昇司

大阪市東淀川区木川東之町三-二

被告

東淀川税務署長 奥谷坦

右指定代理人

細川俊彦

山中忠男

谷本巍

小野恒夫

主文

一  被告が原告らに対し、原告らの昭和四二ないし四四年分の所得税について昭和四六年三月五日付でした各更正及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、裁決で一部取り消された後のもの)のうち、各原告につき次の部分をいずれも取り消す。

1  昭和四二年分所得税更正処分のうち、総所得金額二四五万八一〇六円を超える部分

2  昭和四三年分所得税更正処分のうち、総所得金額三二八万四五一〇円を超える部分

3  昭和四四年分所得税更正処分のうち、総所得金額三三五万〇六八七円を超える部分

4  各過少申告加算税賦課決定処分のうち、右1ないし3に対応する部分

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告が原告らに対し、原告らの昭和四二ないし四四年分の所得税について昭年四六年三月五日付でした各更正及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、裁決で一部取り消された後のもの)のうち、各原告につき別表(一)の「原告らの主張」欄記載の金額を超える部分をいずれも取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告らは共同してアルミ鋳物製造業を営んでいるものであるが、原告らが被告に対してした昭和四二ないし四四年分の所得税の確定申告、被告の更正及び過少申告加算税賦課決定、原告らの異議申立、被告の異議決定、原告らの審査請求並びに国税不服審判所長の裁決は、それぞれ別表(二)記載のとおりである。

2  しかしながら、被告の各更正及び過少申告加算税賦課決定処分(裁決により一部取り消された後のもの。以下、本件各処分という)は、別表(一)の「原告らの主張」欄記載の金額を超える部分について、所得を過大に認定した違法があるので、本件各処分のうち右の部分の取消を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1の事実は認め、同2は争う。

三  被告の主張

1  原告らの昭和四二ないし四四年分の総所得金額は別表(三)の「被告の主張」欄記載のとおりであるから、右金額の範囲内で行われた本件各処分はいずれも適法である。

2  争いのある必要経費の明細について(原告三名分)

(一) 昭和四二年分

(1) 材料費 二〇八四万四〇三四円

(2) 一般経費 五三九万九五九八円

右(1)(2)については、実額算定の資料がないので、それぞれ別紙計算書(一)(1)(2)記載のとおり、推計したものである。

(3) 地代家賃 三万七五〇〇円

原告らが、木津四三二に支払つた車庫の借賃で、昭和四二年五月ないし一二月分である。

(4) 支払利子・割引料 五八万三〇三三円

左記金額の合計額である。

(5) 外注費 一〇八万四八六五円

左記金額の合計額である。

(二) 昭和四三年分

(1) 材料費 二八三八万四三二八円

(2) 一般経費 七三五万二八九三円

右(1)(2)については、実額算定の資料がないので、それぞれ別紙計算書(一)(3)(4)記載のとおり、推計したものである。

(3) 雇人費 五四二万一二七二円

左記金額の合計額である。

(4) 廃棄損 九万一〇二〇円

原告らが昭和四二年二月に一一万一〇〇〇円で取得した卓上電機計算機を、昭和四三年一月に廃棄したことによるもので、その計算は別紙計算書(一)(5)記載のとおりである。

(三) 昭和四四年分

(1) 材料費 二二九七万七〇二九円

左記金額の合計額である。

(2) 一般経費 五九四万三三四二円

左記金額の合計額である。

(ア) 公租公課 二四万九三三〇円

(イ) 水道光熱費 一二万八一六〇円

(ウ) 旅費通信費 八万一一六六円

(エ) 接待交際費 二万五一二〇円

(オ) 損害・火災保険料 一二万三四〇六円

(カ) 修繕費 三〇万〇三九五円

(キ) 消耗品費 三五〇万二〇六一円

(ク) 福利厚生費 九〇万三一六八円

(ケ) 減価償却費(建物以外) 四二万六二〇五円

(コ) 諸会費 八万二四〇〇円

(サ) 雑費 一二万一九三一円

(3) 一般経費のうち争いのある部分の明細

右(2)のうち(エ)(オ)(カ)(キ)の内訳を示す。

(エ)接待交際費は左記支払先に対する支払金額の合計額である。

〈1〉 大丸(砂糖代) 八〇〇〇円

〈2〉 がんこ十三本店 六八七〇円

〈3〉 ダイヤ商店 二四〇〇円

〈4〉 みつわ衣料 一五〇〇円

〈5〉 堤 亭 六三五〇円

(オ)損害・火災保険料は、富士火災海上保険株式会社に支払つた左記保険料の合計額である。

〈1〉 工場建物等 四万四四〇〇円

〈2〉 トヨタコロナバン 三万三六九二円

〈3〉 ダツトサントラツク 四万五三一四円

(カ)修繕費は、左記支払先に対する支払金額の合計額である。

〈1〉 鳥居屋工業所 一二万〇六〇〇円

〈2〉 三津屋モータース 一五万四四四〇円

〈3〉 植田自転車商会 九〇〇円

〈4〉 大阪トヨタ 二一五〇円

〈5〉 橋本無線商会 一万八六一五円

〈6〉 一億電気商会 三五〇〇円

〈7〉 下共電気工業 一九〇円

(キ)消耗品費は、別表(四)記載の支払金額の合計額である。

四  被告の主張に対する原告の認否及び主張

1  被告主張1については、別表(三)のうち、各年分の総収入金額と必要経費のうちその他の部分、昭和四四年分の譲渡所得金額(損失)を認め、その余は争う。

これに対して、原告の主張する金額は、右表の「原告らの主張」欄記載のとおりである。

2  同2(一)(二)は争う。

3  同2(三)(1)は争う。

4  同2(三)(2)のうち、(エ)(オ)(カ)(キ)は争い、その余は認める。

5  同2(三)(3)のうち、

(一) 接待交際費につき、被告主張の五件は認めるが、その外に三三万八七五七円を加算すべきである。

(二) 損害・火災保険料につき、富士火災海上保険株式会社に支払つたことは認めるが、その額は工場建物等用の四万三〇〇〇円と自動車用の一三万〇一六九円の合計一七万三一六九円である。

(三) 修繕費につき、被告主張の〈2〉以外の六件は認める。〈2〉の三津屋モータース支払分は二一万七九〇〇円であるから、合計三六万三八五五円となる。

(四) 消耗品費につき、別表(四)の91011以外の二二件は認める。9の三笠石油株式会社支払分は一〇一万四四一二円、10の都島石油株式会社支払分は三万九五一九円、11の三津屋ベニヤ支払分は六一五二円であるから、合計三六〇万八一五七円となる。

第三証拠関係

一  原告ら

1  甲第一号証の一ないし三、第二号証の一ないし三一、第三号証の一ないし五一

2  原告山田房雄本人

3  乙第一六号証の成立は認め、その余の乙号各証の成立は知らない。

二  被告

1  乙第一ないし第四号証、第五号証の一、二、第六号証、第七号証の一、二、第八ないし第一二号証、第一三号証の一、二、第一四ないし第一六号証

2  証人久下幸男、同高橋秀夫

3  甲号各証の成立は知らない。

理由

一  次の事実については、当事者間に争いがない。

1  請求の原因1の事実

2  被告の主張1につき、別表(三)のうち、各年分の総収入金額と必要経費のうちその他の部分、昭和四四年分の譲渡所得金額(損失)

3  同2(三)(2)のうち、(エ)(オ)(カ)(キ)以外の部分

4  同2(三)(3)のうち、

(一)  接待交際費につき、被告主張の五件

(二)  修繕費につき、被告主張の〈2〉の金額以外の事実

(三)  消耗品費につき、別表(四)の91011の各金額以外の事実

二  昭和四四年分の材料費

原告山田房雄本人尋問の結果及びそれによつて成立を認める甲第二号証の一ないし三一によれば、原告らは昭和四四年に中村商店からアルミ地金を代金二三三一万九一三一円で買入れたことが認められる。乙第五号証の一は、売上金額の月別の明細も記載していないのであつて、甲第二号証の一ないし三一に比して信用性に乏しく、採用し難い。

証人高橋秀夫の証言及びそれによつて成立を認める乙第一四号証によれば、原告らは同年中に高島大典からアルミスクラップを代金一一万〇五〇〇円で買入れたことが認められる。

したがつて、他に特段の事情のない限り、原告らの昭和四四年分の材料費は、合計二三四二万九六三一円と認めるのが相当である。

三  昭和四四年分の一般経費

1  接待交際費

原告らがその主張を裏づけるものとして提出した甲第三号証の一ないし五一は、原告山田房雄本人尋問の結果により真正に成立したものと認められるので、その内容について検討する。右書証のうち、同号証の一、三九は福利厚生費の科目として被告が経費算入を認めているものであることが、証人高橋秀夫の証言及び弁論の全趣旨によつて認められる。七、一一、四九、五〇は被告が接待交際費として認めている分の一部に、一〇、五一は被告が雑費として認めている分の一部に、それぞれ当ることが弁論の全趣旨によつて認められる。二(金額三五二〇円)については、その記載と原告山田房雄本人尋問の結果により、原告らが昭和四四年一月その事業遂行のため支出した接待交際費と認められる。八については、その記載と証人高橋秀夫の証言に徴し原告らが事業遂行の必要上支出したものとは認め難い。それ以外の右書証は、いずれもあて名が全くない領収証であり、原告山田房雄本人尋問の結果その他本件に顕われたすべての証拠によつても、原告らの事業遂行上の必要から支出されたものとは認めることができない。

そしてほかに原告らが接待交際費を支出したことを窺わせる証拠はないから、結局昭和四四年分の接待交際費は二万八六四〇円となる。

2  損害・火災保険料

原告らが自動車及び工場建物等の損害・火災保険料を富士火災海上保険株式会社に支払つたことは当事者間に争いがなく、証人高橋秀雄の証言及びそれによつて成立を認める乙第一五号証によれば、原告らの昭和四四年分の右保険料は一二万六四六九円であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、原告らは自動車一台を昭和四四年一一月他に譲渡した(これによつて生じた損失が前記譲渡所得金額である)ことが弁論の全趣旨により明らかであるところ、右証言中には右自動車の保険料の一か月分に相当する三〇六三円は経費に算入すべきでないという部分があるが、原告らが自動車譲渡に当りその保険契約を解約し、あるいはその解約を前提として譲渡代金の額を定めたことも、解約すれば右金額の保険料が返戻されることもこれを認めるに足りる証拠がないから、右部分は採用しない。

3  修繕費

原告山田房雄本人尋問の結果によつて成立を認める甲第一号証の一ないし三、証人高橋秀夫の証言によつて成立を認める乙第二号証、右証言及び本人尋問の結果によれば、原告らが三津屋モータースに支払つた昭和四四年分の自動車修繕費の金額は、二一万七九〇〇円であること、そのうち少なくとも三万八三二〇円は乗用車いすずフロリアンの修繕費であること、右乗用車が原告らの業務に使用された割合は五〇パーセントであることが認められ、右認定を覆えす証拠はない。

したがつて右自動車修繕費のうち必要経費に算入されるのは一九万八七四〇円である。

4  消耗品費

証人高橋秀夫の証言、それによつて成立を認める乙第三、第四号証及び弁論の全趣旨によれば、原告らが三笠石油株式会社、都島石油株式会社、三津屋ベニヤに対して支払つた昭和四四年分の消耗品費は、それぞれ(一)一〇一万四四一二円、(二)三万九五一九円、(三)三三三六円であること、(一)のうち一六万七〇四二円及び(二)は乗用車の消耗品費であること、右乗用車の事業供用割合は五〇パーセントであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

したがつて右消耗品費のうち必要経費に算入される金額は、被告主張のとおりとなる。

四  昭和四三年分の雇人費、廃棄損

証人高橋秀夫の証言及びそれによつて成立を認める乙第一〇ないし第一二号証、第一三号証の一、二によれば、原告らの昭和四三年分の雇人費は五四二万一二七二円であること、原告らは昭和四二年二月代金一一万一〇〇〇円で購入した卓上電気計算機を昭和四三和一月破損したため廃棄したことが認められ、右認定に反する原告山田房雄本人尋問の結果は措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。したがつて廃棄損は被告主張のとおり九万一〇二〇円となる。

五  昭和四二年分の地代家賃、支払利子・割引料、外注費

証人高橋秀夫の証言及びそれによつて成立を認める乙第一、第六号証、第七号証の一、二、第八、第九号証によれば、原告らの昭和四二年分の地代家賃、支払利子・割引料、外注費は、いずれも被告主張のとおりであつて、それぞれ三万七五〇〇円、五八万三〇三三円、一〇八万四八六五円であることが認められ、右認定に反する原告山田房雄本人尋問の結果は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

六  昭和四二、四三年分の材料費、一般経費

原告らの昭和四二、四三年分の材料費、一般経費については、成立に争いのない乙第一六号証及び証人高橋秀雄の証言によつて実額を算定するための資料が全く存在しないことが認められ、右認定に反する原告山田房雄本人尋問の結果は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はないので、推計によつて算定することが許容される。

また、弁論の全趣旨によれば、昭和四二年から昭和四四年にかけて原告らの事業の実体にはさしたる変動がなかつたこと、材料費、一般経費はおおむね収入金額に応じて増減することが認められるから、被告主張の材料費率、一般経費率を用いた推計方法は合理的なものといいうる。

そこで、前記一の当事者間に争いがない事実及び同二、三で認定した事実に基づいて計算すると、別紙計算書(二)記載のとおりとなる。

七  結論

前記一ないし六を要約すると、別表(五)記載のとおりとなる。

したがつて、本件各処分のうち、各原告につき、

1  昭和四二年分所得税更正処分のうち、総所得金額二四五万八一〇六円を超える部分

2  昭和四三年分所得税更正処分のうち、総所得金額三二八万四五一〇円を超える部分

3  昭和四四年分所得税更正処分のうち、総所得金額二三五万〇六八七円を超える部分

4  各過少申告加算税賦課決定処分のうち、右1ないし3に対応する部分

はいずれも所得を過大に認定した違法がある。

よつて、原告らの本件請求は、右の部分の取消を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 井関正裕 裁判官 西尾進)

別表(一)

別表(二)

一、(原告山田房雄について)

(一)、昭和四二年分

(二)、昭和四三年分

(三)、昭和四四年分

二、(原告山田清について)

(一)、昭和四二年分

(二)、昭和四三年分

(三)、昭和四四年分

三、(原告山田健次について)

(一)、昭和四二年分

(二)、昭和四三年分

(三)、昭和四四年分

別表(三)

(1) 昭和42年分

(2) 昭和43年分

(3) 昭和44年分

別表(四)

「消耗品費明細表」

別表(五)

(1) 昭和42年分

(2) 昭和43年分

(3) 昭和44年分

計算書(一)

計算書(二)

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